臨床精神医学第52巻第5号
統合失調症の動物モデルを使った新規診断治療法の開発─ MMN,ASSR,fMRIのリバーストランスレーション─
電子書籍のみ
- 那波 宏之・他(和歌山県立医科大学)
- 発行日:2023年05月28日
- 抄録:現在,統合失調症の仮説は100以上にも上るとされ,その動物モデルも乱立している。実際の患者病態とモデル動物間での表現型におけるギャップは大きく,創薬にも依然として旧来の薬理学的動物モデルが活用されている。しかしその暗黒ギャップに対し,最近,一つの光明が差してきている。それは磁気共鳴機能画像法(fMRI)デフォルトネットワークを代表とする脳内の機能的結合変化,脳波事象関連電位をもちいたミスマッチ陰性電位(MMN)や聴性定常反応検査(ASSR)のモデル動物への応用である。これらの科学的指標はヒトと動物両者間でトランスレーション可能な定量的指標であり,既存のモデル動物の一部でも高い疾患適合性を示すものが存在する。統合失調症の病因,病態の神経科学的基盤の解明にはまだ多くの時間を要すると推定されるものの,適合性の高いモデル動物を選別するとともに,これら動物モデルの生理・画像指標を用いて侵襲的実験研究を実施し,新規治療法を評価することが可能となる。また,加えて機械学習や人工知能を使って,その判定能力,推定精度を上げることも可能かもしれないし,電気刺激治療の安全性と効果を事前予測できるかもしれない。したがって,ヒト患者では難しい探索的な診断方法の開発・最適化や創薬開発,治療効果の判定が,モデル動物を使ったリバーストランスレーションを通して今後,ますます盛んになっていくものと推定される。本稿においては,統合失調症の動物モデルにおけるfMRI,MMNやASSRの実験事例を具体的に紹介し,そのリバーストランスレーションの有用性と課題を議論してみたい。
詳細
Development of diagnostic and medication strategies from animal modeling of schizophrenia; reverse-translation of MMN,
ASSR and fMRI data
那波 宏之 難波 寿明
和歌山県立医科大学薬学部生体機能解析学研究室