臨床精神医学第53巻第4号

慢性ストレスによる炎症疾患の増悪機構

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  • 村上 薫・他(北海道大学)
  • 発行日:2024年04月28日
  • 〈抄録〉自然免疫系と獲得免疫系からなる免疫系は,体外から侵入する病原体を除去するために発達してきた。自然免疫系は植物や菌類に至るまでほとんどすべての真核生物が有するメカニズムであり,マクロファージ,好中球,樹状細胞,NK細胞などにより構成され,病原体がもつ分子内の独自のパターンを認識して素早く病原体自体や感染した細胞を排除する。一方,獲得免疫系は遺伝子組換えを生じる抗原受容体を持つリンパ球であるT細胞とB細胞が主体である。両免疫系の細胞も血中に存在し,これらの細胞の存在と,脳や脊髄など中枢神経系(CNS)の血管に存在する血液脳関門(BBB)という特殊な構造により血管系からCNSへの病原体,化学物質および免疫細胞の侵入を防ぎ,CNSの恒常性を極めて高度に維持している。一方,『病は気から』という言葉にあるように,健康状態と心理機能の関連は古くから多くの人が経験的に感じてきたが,その詳しい分子機序は不明であった。精神・心理状態の変容は神経回路ネットワークが媒介して発動することから,ストレスによって活性化される特定の神経回路のネットワーク構造とそのネットワークのエンドポイントとなる臓器における組織・細胞の機能変容および疾患の発症や増悪との相関を横断研究することが重要である。本稿ではまず,われわれが発見した自己免疫疾患をはじめとする慢性炎症性疾患の病態形成時に局所炎症を誘導・維持する炎症増幅機構である『IL-6 アンプ(IL-6 amplifier)』について概説する。次に,多発性硬化症(Multiple sclerosis:MS)モデルの実験的自己免疫性脳脊髄炎(Experimental autoimmune encephalomyelitis:EAE)などの疾患モデルを用いた解析を通して発見された『ゲートウェイ反射(Gateway reflex)』,そのなかでも特に睡眠障害ストレスにて発見された『ストレスゲートウェイ反射』について説明し,その後は最新の研究である当該ストレスを介した精神神経ループス(NPSLE)の新たな疾患メカニズムについて概説する。IL-6 アンプやゲートウェイ反射の概念は,がんや自己免疫疾患など,ストレスが関与するとされるさまざまな炎症性疾患の病理学的分子機序の理解や,これら疾患に対する新しい診断法や治療法の開発に寄与することが期待される。

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Mechanisms of exacerbation of inflammatory diseases by chronic stress
村上 薫*1 北條 慎太郎*1,2 村上 正晃*1,2,3
*1北海道大学遺伝子病制御研究所
*2量子免疫学研究チーム
*3生理学研究所分子神経免疫学部門