臨床精神医学第53巻第4号
肥満,インフラムエイジングからフレイルへ
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- 乾 明夫・他(鹿児島大学)
- 発行日:2024年04月28日
- 〈抄録〉食欲・体重調節機構は脳腸相関として知られ,脳・消化管ペプチドが重要である。レプチン・インスリンは体脂肪蓄積に関わり,その下流にある空腹因子(グレリン・NPYなど)と満腹因子(GLP-1,セロトニンなど)の相互作用に基づく調節機構である。最近その構成因子として,腸内細菌叢の重要性が明らかになりつつある。肥満では脳内視床下部,腸管を含めたシステミックな炎症があり,レプチンや空腹系の脱抑制をきたす。若い女性や高齢者では痩せも重要であり,空腹系のシナプス変化や老化がその根幹をなす。米国では3人に1人が肥満であるといわれ,GLP-1作動薬が肥満症の治療に用いられている。ごく最近日本でも,GLP-1作動薬が2型糖尿病に加えて肥満症に承認された。肥満は2型糖尿病や心血管疾患,がんなど合併症や,フレイルの基礎疾患をなしている。フレイルは加齢による骨格筋萎縮(サルコペニア)を中心とする心身のシンドロームである。近年,個々の疾患の治癒を目指す従来の考えから,細胞老化を制御することにより疾患をまとめて治療・予防し,健康寿命を延長させようというパラダイムシフトが生じつつある。細胞老化には老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype:SASP)と呼ばれる炎症環境が問題となり,インフラムエイジングとして知られている。このSASPを抑制することがフレイルをはじめ老化関連疾患の治療に有用と考えられ,カロリー制限模倣薬(グレリン・メトホルミン・ラパマイシン・補剤人参養栄湯)やセノリティクス(老化細胞減少:ダサチニブ・ケルセチン・フィセチン)を含めた抗老化薬(geroprotector)の開発・応用が進められている。
詳細
Obesity, inflammaging and frailty
乾 明夫*1 黒田 英志*1 奥津 果優*1,2 宇都 奈々美*1
*1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科漢方薬理学共同研究講座
*2株式会社文寿