臨床精神医学第52巻第12号
居住地のみならず職場でも個別具体的な他者を対象とした被害妄想を呈し,退職によりそれが消退した遅発パラフレニーの1症例
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- 朝比奈 次郎(医療法人原会原病院)
- 発行日:2023年12月28日
- 〈抄録〉
居住地のみならず職場でも個別具体的な他者を対象とした被害妄想が出現し,退職により消退した遅発パラフレニーの1症例を経験したので報告する。Roth Mによれば遅発パラフレニーの妄想対象は隣人,友人,親戚といった卑近な個別具体的他者であり,妄想が展開する場所は居住地に限定されている。しかし,本症例の妄想対象は近隣住民のみならず正社員で勤務している職場のスタッフでもあり,妄想が展開する場所は居住地と職場であった。中安によれば遅発パラフレニーの妄想には住所地からの引き離しが効果的であるとされているが,本症例の職場での妄想も退職することで消退した。このことは,居住地のみならず全般的に妄想が展開する場所からの引き離しが有効であることを示すとともに,本症例が遅発パラフレニーと同じ病態であることの傍証でもあった。そして,本症例でみられた引き離し効果は物理的距離が離れることを介して心理的距離が遠のくことによって得られたもので,遅発パラフレニー全般にも通じると考察した。
詳細
A case of late paraphrenia with exhibiting persecutory delusions targeting individual and concrete others not only in the place of residence but also in the workplace, disappearing by retirement
朝比奈 次郎
医療法人原会原病院