臨床精神医学第52巻第4号
Demoralization の治療中にImaginary Companion の存在が明らかになった双極性感情障害の成人例─その治療過程を通しての一考察─
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- 中川 東夫(恵寿総合病院)
- 発行日:2023年04月28日
- 〈抄録〉
Demoralizationは,心的または外的ストレスの対処への失敗を繰り返すことによって引き起こされる心理的反応であり,それは無力感,絶望感,苦痛,孤立感,自尊心の低下などの感情が生じ,人生の目的や意味を喪失する体験である。他方,Imaginary Companion (I.C.)は,健常な子どもの発達過程でみられる一過性の精神現象とされてきたが,近年ではさまざまな精神疾患との関連や成人後の精神病理にリスクをもたらす可能性が論じられるようになり,その臨床的意義に注目が集まっている。筆者はdemoralizationを主訴に初診し,その治療中I.C.の存在が明らかになった双極性感情障害(BAD)の成人男性例を経験した。受診時,症例はBADのうつ病相期にdemoralizationが重畳した状態であったことから,優先的にdemoralizationの対処に取り組んだ。患者のモラールが回復した頃,自ら複数のI.C.の存在を打ち明け,I.C.が小児期から成人期まで“生と死”に対する恐怖感や不安感を緩和し,“生きる意味”に苦悩する患者の気持ちを軽減する役割を担っていたことが明らかになった。BADの発病後,I.C.はうつ病相期で気分と情動の安定を図ったが,患者の知覚,欲動,行動に影響を及ぼすことはなかった。本稿では,BADの患者に随伴するdemoralizationの対処とI.C.への対応を通して,その治療的関与の在り方について考察した。
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A case of an adult patient with bipolar affective disorder who revealed the existence of an imaginary companion during treatment for demoralization: A study of the treatment process
中川 東夫
恵寿総合病院