臨床精神医学第54巻第9号
大きな物語が失われた日本における気分障害の処方箋
電子書籍のみ

- 芝 伸太郎(もみじケ丘病院)
- 発行日:2025年09月28日
- 〈抄録〉
第二次世界大戦終結によって世界ではすでにポストモダニズムへの移行が始まったのに対して,国土が灰燼に帰した旧西ドイツと日本では国家再建という目標が掲げられモダニズムの延命が図られた。両国では東西冷戦終結(1989年)を契機としてモダニズムが突如としてポストモダニズムに転換し,社会の諸相と気分障害の病像は大きな変貌を遂げる。戦後数十年間における休息と服薬という気分障害治療の二大原則は,大きな物語が失効したポストモダニズムではもはや通用しない。本稿では,モダニズムの終盤において松竹新喜劇を凌駕するに至った吉本新喜劇のナンセンスギャグから示唆を得て,小さな物語として臨床現場にあふれかえる双極性障害の精神療法の要諦を論じた。反復使用に耐える有効な短い言葉の処方(タクト)と,メタ価値観(=コンプライアンス)が支配する空間で患者が表出する隠微な陰性感情を治療者が受け流す鷹揚さが決め手となるだろう。
詳細
A prescription for mood disorders in Japan where grand narratives have been lost
芝 伸太郎
もみじケ丘病院