臨床精神医学第50巻第7号

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  • 特集/精神医学の臨床と哲学
  • 発行日:2021年07月28日
  • <企画趣旨>
    昨今の精神科臨床では、精神科疾患と生活上の悩みや社会的問題との境界が曖昧化していると感じられることがある。たとえば「就職を控えているが卒業のための課題に集中できない」ので「僕はADHDでしょうか」という青年の訴えには、学業や進路の悩みが「ADHDか否か」という精神科診断の問題にすり換えられている印象をうける。近年、DSM-5やICD-11においてギャンブル障害やゲーム障害が精神疾患として明確に位置づけられたという変化からは、精神科疾患とその他の問題との境界は社会情勢の如何によって揺れ動くということが示唆される。統合失調症や認知症疾患など、まぎれもなく精神科疾患と思われる対象に限っても、統合失調症については客観的な神経病理所見に乏しく診断に役立つバイオマーカーもないという事情から「統合失調症は本物の病気だろうか」「統合失調症の診断はどれほど確かといえるのか」などの疑問が従来から提示されてきた。アルツハイマー病のように客観的な神経病理所見と診断用のバイオマーカーをもつ疾患であっても、そのような疾患をもつ人々と臨床実践や社会生活の上でどのように関わってゆくべきかという問いは依然として重要である。このような問題意識から、精神医学では疾病概念や診断の意味を問い直す試みがしばしば行われてきた。欧米では、そうした問題を扱う領域として2000年ごろから「精神医学の哲学」という哲学の一分野が成立し展開している。本邦でも近年、翻訳や関連書籍の出版などを通じて「精神医学の哲学」の紹介と、その知見を踏まえた考察が展開されつつある。「精神医学の哲学」では、DSMなどの疾患分類は精神科疾患の本当の姿をとらえた妥当な分類なのかといった主題が扱われる。これは科学としての精神医学に関する問い、いわば「精神医学の科学哲学」である。また「精神医学の哲学」には妄想や嗜癖といった主題を心の哲学や認知科学の知見を生かして考察する領域も含まれる。以上のような「精神医学の哲学」の流れを踏まえておくことは、今後の精神医学の動向を理解する上で有用だと思われる。本企画では「精神医学の哲学」とその主題について、研究動向の紹介や各執筆者のオリジナルな見解の提示を行っていただく。

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<目次>
「精神医学の哲学」と臨床精神医学(東京大学)榊原 英輔
疾患概念論温故知新─現代の疾患概念論によってKurt Schneiderを批判する−(さいがた医療センター)本村 啓介
機能という観点からみた疾患概念(慶應義塾大学)杉本 俊介
精神障害における存在論と認識論─DSM委員会と精神病理学の古典と─(虎の門病院)大前 晋
診断と精神医学(東京大学)石原 孝二
心の哲学からみた嗜癖性障害(東京大学)信原 幸弘
妄想の定義と説明─哲学の観点から─(北海道大学)宮園 健吾
英語圏の哲学に基づく精神療法の哲学(札幌医科大学)田所 重紀
精神医学史からみた「精神医学の哲学」山岸 洋
精神病理学と「精神医学の哲学」(東京農工大学)熊㟢 努
精神医学の哲学としてのDSM的理性(立命館大学)美馬 達哉
現代の現象学と精神医学(東海大学)田中 彰吾
心の哲学における4つの新動向(東京大学)鈴木 貴之
短 報
口腔ケアは周術期精神疾患患者の発熱を減らした 鈴木 鉄夫・他