臨床精神医学第51巻第2号
精神分析における歴史的症例報告が精神医学に与えたインパクト―症例アンナ・Oを例として―
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- 松本 卓也(京都大学)
- 発行日:2022年02月28日
- 〈抄録〉
精神医学において,経験された症例のなかからある際立った特徴が抽出され,それが新たな臨床単位等として結実し,新しい理論を生み出すことがある。この際に,私たちは個別性から一般性を抽出するという操作を行っていると考えられる。他方,精神分析においては,時に極めて特異的な1症例から普遍性が抽出されることがある。この個別性-一般性,特異性-普遍性のあいだのずれは,両者のあいだにしばしば摩擦ないし緊張関係を生んできたが,しかしこの摩擦こそが臨床における倫理を担保しているのではないか。本稿では,アンナ・Oという特異的な症例をめぐってなされた論争を紹介しつつ,精神分析における(というよりもむしろ,特異性を提示する)症例報告の意義について述べた。
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The importance of “singular” clinical cases in psychoanalysis: the case of Anna O
松本 卓也
京都大学大学院人間・環境学研究科