臨床精神医学第51巻第8号
神経性やせ症と脳内報酬系
電子書籍のみ
- 磯部 昌憲(京都大学)
- 発行日:2022年08月28日
- 〈抄録〉
神経性やせ症(AN)はやせ願望や肥満恐怖を中核に持つ疾患であるが,その病因や発症機序はいまだ明らかでない。身体的問題を抱えながらも少食を維持するなど特徴的な症状から,その発症や症状維持に脳内報酬系の異常が関与する可能性が指摘されてきた。すなわち,食事量制限や痩せもなんらかの脳内報酬として認識され,結果行動維持につながっていると考える「行動嗜癖」の観点である。動物実験を含む多様な研究手法により脳内報酬系に関する知見が蓄積されてきており,ヒト対象の脳構造的MRI研究ではAN患者で報酬系関連領域の構造変化が指摘され,脳機能的MRI研究では,食物刺激やボディイメージに関する刺激,摂食量制限や過活動などAN関連の刺激に対して,それぞれ特徴的に反応することが報告されている。脳内報酬系という枠をとおしてANの症状維持機序を理解することは,より効果的な臨床介入を模索するうえで重要な知見を提供すると期待される。
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Brain reward systems in anorexia nervosa
磯部 昌憲
京都大学医学部附属病院精神科神経科