臨床精神医学第50巻第4号
ADHDと精神鑑定
電子書籍のみ
- 安藤 久美子・他(聖マリアンナ医科大学)
- 発行日:2021年04月28日
- 〈抄録〉
「発達障害」の診断名が社会に周知されるにしたがって,近年,法廷の場においても「発達障害」の診断やその特性が刑事責任能力の減免に関する抗弁として用いられるようになってきた。本稿では,発達障害のなかでも特にADHDに焦点をあて,刑事裁判において法廷が「ADHD」のどのような特性に関心を抱き,責任能力判断に結び付けていくのかについて概説した。多くのケースでは発達に関連した脳の機能不全が責任能力にも影響を与えているという主張がなされていたが,障害特性そのものが犯罪行動を説明するような機序を見いだすことはできず,現在のところ,責任能力の減免を認める判決は見当たらなかった。法廷における「診断名」には,治療の過程で変更可能な医療現場におけるそれとは大きく質の異なった重みがある。もし精神鑑定や専門家証人として法廷で意見を述べる立場におかれた際には,精緻な診断を心がけるとともに,障害特性が事件にどのように影響を与えていたのかを中立,冷静な立場で徹底的に分析することが最も重要であることを論じた。
詳細
Psychiatric expert testimony for ADHD
安藤 久美子 神山 昌也
聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室