Bone Joint Nerve通巻第38号第10巻第3号

  • 特集/がんロコモ〜がん診療のニューフロンティア
  • 発行日:2020年07月01日
  • 〈企画趣旨〉がん患者の増加、がん治療の進歩に伴い、がん生存者は急増し、その対応が社会的責務となっている。そしてがん治療の外来移行、看取りの在宅移行に伴い、がん患者も就労し、外来通院をし、地域で社会参加をしながら活動を育む必要がある。がん患者が社会参加をするためには、身体の移動機能の維持向上が重要であり、そのためにはがん患者の運動器管理を適切に行うことが必要である。現在まで整形外科をはじめとする運動器診療科はがん患者の運動器管理に積極的でなく、一方でがん診療科はがん患者の運動器管理に無関心であった。このことが、がん患者の移動機能の低下に拍車をかけ、人生の最後を寝たきりで過ごすがん患者の悲痛な叫びに対応できていなかったのである。
     ニューフロンティアという言葉をご存じだろうか?1960年代に米国でJFケネディが大統領指名選挙を戦った時に使用されたキーワードである。フロンティアとは未開拓地と訳され、米国では西部開拓の原動力となり、1890年代に米国では消滅した。しかし、1960年代の米国では、フロンティアはなくなっていても、平和と戦争、無知と偏見、貧困と豊かさといった社会的な矛盾や問題が山積しており、その問題を「ニューフロンティア(未解決地)」と名付けて、再提示した。そしてJFケネディはその後大統領となり、ニューフロンティア政策として、米国の社会的問題に取り組んだのである。ニューフロンティア政策は7つに要約されており、それぞれ、人口のニューフロンティア、生存のニューフロンティア、教育のニューフロンティア、住宅と都市郊外のニューフロンティア、科学と宇宙のニューフロンティア、オートメーションのニューフロンティア、余暇のニューフロンティアに分類され、それぞれの対応策が考えらえたのである。
     一方でがん診療はどうであろうか。まだ進行がんを完治させる手段は存在しないので、がん診療におけるフロンティア(未開拓地)は残っている。しかし、分子標的薬、高精度放射線療法、低侵襲手術、早期からの緩和ケアなど、がん治療の進歩によって、いままで生命予後を得られなかったがん患者が多数生存する時代となった。しかし、彼らがんサバイバーとしての生活、社会活動するためには多くのニューフロンティア(未解決地)が残っている。我々はその中で最も大きなものが、がん患者の移動機能の低下、運動器管理の必要性であると考えている。
     がん患者の移動機能低下-それを我々は「がんロコモ」と名付けて提唱しているが-、これを解決するには、がん患者の運動器管理が重要である。このがん患者の運動器管理こそが、がん診療のニューフロンティアであり、また、整形外科をはじめとする運動器診療科のニューフロンティアでもある。我々は、このニューフロンティアを解決するために、JFケネディが提示したニューフロンティア政策の7つの要約にそってがん診療のニューフロンティア「がんロコモ」を分類してみたい。

      人口のニューフロンティア
       がん患者の増加にともなうがんロコモの重要性
      生存のニューフロンティア
       がん治療の進歩によるがん生存率の向上に伴うがんロコモの重要性
      教育のニューフロンティア
       がん治療の高度化に伴い、がん治療にも精通した運動器診療の必要性
       チーム医療の浸透に伴う多職種に対するがんロコモの啓発
      住宅と都市郊外のニューフロンティア
       がん治療の外来移行、看取りの在宅移行に伴い、がん患者が地域で包括されるためのがんロコモの必要性
      科学のニューフロンティア
       がんロコモに対する科学的エビデンスの重要性
      オートメーションのニューフロンティア
       がんロコモを見逃さないために運動器管理のオートメーション化の重要性
      余暇のニューフロンティア
       がん患者のレクリエーションに対するがんロコモの重要性

     この7つの問題を解決するために我々運動器診療科自身もがん患者の運動器管理に積極的にかかわり、がん診療科や多職種と密接にチームを組みながら解決していく必要があると考えている。
     今回の特集では、がん患者の運動器管理に積極的にかかわっている運動器診療科や緩和ケアの先生方にこのニューフロンティアの分類に沿って解説と提言をいただいた。

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〈目次〉
Part 1●はじめに
 がんロコモとは─がん診療と運動器診療のニューフロンティア─
  帝京大学 河野 博隆

Part 2●人口のニューフロンティア(がん患者の増加とがんロコモ)
 がん高齢時代における介護社会から自立支援社会への移行
  ベルランド総合病院 大島 和也

Part 3●生存のニューフロンティア(がん治療の進歩とがんロコモ)
 定位放射線治療:がんロコモ回避への新たなアプローチ
  がん・感染症センター都立駒込病院 伊藤  慶
 がん手術治療の進歩とがんロコモ─消化管癌を中心に─
  神戸大学 中村  哲
 緩和ケアの進歩とがんロコモ
  埼玉医科大学 岩瀬  哲

Part 4●教育のニューフロンティア(がんロコモ教育)
 運動器診療科ががん患者を診察するために,必要な基礎知識
  静岡がんセンター 片桐 浩久
 がん診療医に向けたがんロコモのマネジメント
  順天堂大学 髙木 辰哉
 がんロコモを意識した疼痛コントロール
  東京大学 篠田 裕介
 ひとりじゃない,チームで行う骨転移診療
  東京医科歯科大学 佐藤 信吾
 がん患者のリハビリテーション診療におけるがんロコモ
  帝京大学 緒方 直史
 がん患者の栄養とがんロコモ・悪液質・サルコペニア
  熊本リハビリテーション病院 吉村 芳弘

Part 5●住宅と都市郊外のニューフロンティア(在宅,通院患者におけるがんロコモ)
 「がんロコモ」がつなぐ医療と街
  早稲田大学 河野 茉莉子ほか
 在宅緩和ケアにおける地域でのがんロコモ対策
  清水メディカルクリニック 清水 政克
 就労支援とがんロコモ対策
  帝京大学 阿部 哲士

Part 6●科学のニューフロンティア(がんロコモに対する研究)
 がんロコモにおける科学的エビデンスの構築
  国立病院機構東京医療センター 森岡 秀夫

Part 7●オートメーションのニューフロンティア(がんロコモ診療のオートメーション化)
 脊椎転移による麻痺の予防:レッドフラッグ
  岡山大学 中田 英二ほか
 放射線科診断の読影から整形外科医への連携─大阪医科大学の取り組み―
  大阪医科大学 馬場 一郎ほか
 四肢病的骨折への対応
  奈良県立医科大学 塚本 真治ほか
 脊髄圧迫の対応
  神戸大学 角谷 賢一朗ほか

Part 8●余暇のニューフロンティア(社会活動とがんロコモ)
 がん生存者のスポーツ活動とスポーツ傷害
  神戸大学 黒田 良祐ほか
 小児・AYA世代がん患者におけるがんロコモ
  国立がん研究センター東病院 細野 亜古

●鼎談
 がんと共存する時代~がん診療の運動器診療
  帝京大学 河野 博隆/神戸大学 酒井 良忠/慶應義塾大学特任教授 桃原 茂樹(司会)

●コラム
 久しぶりに「the Best and the Brightest」を読み直して
  東和病院 西野 仁樹

●症例報告
 尺骨頭に発生し著明な回内制限を呈した類骨骨腫の1症例
  富士市立中央病院 船井  充ほか