肝胆膵第73巻第1号
大規模疫学データ解析からみた重症急性膵炎に対する動注療法の効果
電子書籍のみ
- 濱田 毅,他(東京大学)
- 発行日:2016年07月28日
- 〈要旨〉
重症急性膵炎,特に急性壊死性膵炎に対する蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬の膵局所持続的動注療法は,急性炎症の原因部位に,高濃度の薬剤投与を行うことで,急性炎症抑制・虚血改善・感染性合併症予防を期待する治療法である.本邦において有用性に対するエビデンス集積があり,2010年にはポーランドから初めての無作為化比較試験が報告され有用性が確認された.しかし,本邦において膵局所動注療法施行群と非施行群を交絡因子の調整をしながら比較・検討した大規模試験はなかった.
われわれは,本邦の診断群分類包括評価システムにおけるDiagnosis Procedure Combinationデータベースの連続21,468例の急性膵炎データに基づいて,膵局所動注療法の有用性を検討した.厚生労働省の重症判定基準(予後因子スコア・CT grade)をはじめ,急性膵炎の臨床アウトカムに影響を与えうる因子の調整を傾向スコアによるマッチングで行った.結果,院内死亡率は,膵局所動注療法施行群 vs. 非施行群(各群207例)で7.7% vs. 8.7%と有意差は認めず,入院期間・入院診療費の点でも,有用性は示せなかった.ただし,本研究は後向き試験であり,本治療法が開発され発展してきた本邦からの質の高い無作為化比較試験が望まれる.大規模な試験が実施されれば,現在未確定の多くのクリニカルクエスションも明らかになってくるであろう.
詳細
Continuous regional arterial infusion for acute pancreatitis: a population-based study based on a nationwide administrative database
濱田 毅*1 康永 秀生*2 伊佐山 浩通*1 中井 陽介*1 多田 稔*1 小池 和彦*1
*1東京大学大学院医学系研究科消化器内科学
*2同 公共健康医学専攻臨床疫学・経済学