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 第68巻3号(2014年3月号) 特集/肝胆膵腫瘍のバイオインフォマティクス
定価(\)本体 3,000+税 送料(\) 150


編集後記

今月号の特集は『肝胆膵腫瘍のバイオインフォマティクス』ということで,肝臓と胆膵領域においてこの領域の第一線で活躍されている先生方にご執筆いただいた.
 バイオインフォマティクスとは,遺伝子やその産物である蛋白,RNAなどの生命活動に不可欠な物質の情報を扱う学問分野である.すなわち,これらの膨大な情報は,統計学的解析を通じて,始めて疾患の理解や診断・治療に役立てることができる.近年,GWASや次世代シークエンサーにより極めて膨大なデータが短時間で得られるようになった.その中から真に臨床的に意義のある情報を見出すことが現時点における最大の課題であり,正にバイオインフォマティクスの主たる研究対象となっている.
 2011年に国立がん研究センターにより,次世代シークエンサーを用いた肝細胞癌の全ゲノム解析が発表された.その後も国内外より肝細胞癌の全ゲノム解析,エクソーム解析の解析結果が相次いで発表されている.しかしながら,これらの解析結果から明らかになったことは,肝癌では,肺腺癌に見られるEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子など,明らかに単一遺伝子の異常により発癌を強力にdriveする遺伝子異常は見つからず,頻度の低い,しかし多彩な遺伝子の変異が確認されただけである.こと肝細胞癌においては,単一のdriver mutationによって発癌が引き起こされていることは,ほぼ否定されたと言って良い.しかしながら,これらの膨大な情報を,簡単に臨床医が手にすることができるようになったのは事実である.そこには500カラットのダイヤの原石が紛れ込んでいる.アイデア次第では医療が大きくかわるかもしれない.例えば,癌の悪性度や治療選択,予後の予測あるいはGWASを用いた薬剤の感受性や副作用予測など,その応用に期待されうる範囲は極めて広い.真の個別化医療の黎明期といってよい.癌分野でのバイオインフォマティクスは正にそれを目指している.
 次に,現在最も注目されているのは癌幹細胞の分野である.肝細胞癌においては幹細胞様の性質を持つ癌は40%〜50%存在するとも言われている.しかし,大腸腫瘍の解析結果を参考にすると,いわゆる高分化肝癌でも幹細胞様の性質を持つ癌細胞がsmall populationとして存在しているかもしれない.一方,転写因子である幹細胞マーカーSALL4発現症例は複数の報告において,予後不良であることが知られている.興味深いことに,この単一分子をノックダウンするだけで,肝癌細胞株の遺伝子発現パターンが幹細胞型から,成熟肝細胞型へと変化する.臨床との関係ではDNAメチル化阻害剤,HDAC阻害剤がSALL4陽性肝癌において効果があることも報告され始めている.単一のdriver mutation がなくても,エピゲノムの遺伝情報を書き換えてしまえばかなりの肝細胞癌が治療できるのであろうか? ただしSALL4の機能解析は,まだ緒についたばかりであり,今後の展開が楽しみである.
 今回の座談会では,紙面の都合上,胆膵癌は割愛し肝細胞癌のみに絞り,肝細胞癌のバイオインフォマティクスについての今後の展開についてエキスパートの先生方にお集まりいただき活発にお話をいただいた.
 現在バイオインフォマティクスの重要性とその意義付けについての研究はまだまだその発展の緒についたばかりであるが,医療を変えるポテンシャルを持った分野である.
 本特集は臨床家である読者の方々にとって,この領域の最新の進歩をキャッチアップするよい機会になることを祈念して編集後記としたい.               (工藤正俊)


 

目次

〔巻頭言〕バイオインフォマティクス 浜松労災病院 有 井 滋 樹…337

腫瘍の性質と分子プロファイリング
 肝腫瘍の全ゲノム解析
   理化学研究所・統合生命医科学研究センター 藤本 明洋,他…339
 胆・膵腫瘍の網羅的ゲノム解析 国立がん研究センター研究所 谷内田 真 一…345
 肝癌におけるDNAメチル化プロファイリングの現状と意義   近畿大学 西田直生志,他…353
 胆・膵腫瘍のメチル化(メチローム)解析   東京女子医科大学統合医科学研究所 古 川   徹…365
 肝腫瘍のトランスクリプトームプロテオーム解析 金沢大学 本多 政夫,他…373
 胆膵腫瘍のトランスクリプトーム・プロテオーム解析 東北大学 濱田  晋,他…379

ゲノムワイド関連解析と疾患感受性マーカー
 肝癌のリスクマーカーとGWAS 東京大学医科学研究所 加藤 直也,他…385
 胆・膵悪性腫瘍のリスクと分子マーカー 東北大学 堀 井   明…391

診断・治療におけるバイオマーカーと治療標的分子
 難治性腫瘍の早期診断マーカー
  膵癌の早期診断マーカーとしての血清TFF3 東京大学 野 村 幸 世…395
  早期膵癌の分子マーカー 東京医科歯科大学 田中 真二,他…401
  メタボローム解析による膵がんバイオマーカー探索 神戸大学 小林  隆,他…409
  肝腫瘍の分子標的治療とバイオマーカー 近畿大学 小寺 康夫,他…415
  胆・膵腫瘍の分子標的治療とバイオマーカー 東北大学 水間 正道,他…421
  肝腫瘍に対する創薬シーズ
   肝細胞癌治療の標的分子探索を目指したレチノイン酸応答性遺伝子の解析
     鳥取大学 神吉けい太,他…429
   幹細胞マーカーSALL4の肝癌治療法における可能性
     東京慈恵会医科大学 及川 恒一,他…437
  胆膵腫瘍に対する創薬シーズ
   新規治療的分子 千葉大学 三方林太郎,他…445

腫瘍診断におけるct DNAの役割 山梨県立中央病院 弘津 陽介,他…453

肝・胆・膵悪性腫瘍の個別化薬物治療の現状
 肝腫瘍領域の個別化薬物治療の現状 近畿大学 上嶋 一臣,他…459
 胆・膵領域の個別化薬物治療の現状 杏林大学 古 瀬 純 司…465

座談会“肝胆膵腫瘍のバイオインフォマティクス” 471  

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