編集後記
本邦においてNASH/NAFLDの本格的な基礎的および臨床的研究が始まって10年足らずである.40年前は肝臓病学は代謝学が主流で,肝性糖尿病の言葉も使用されていた.その後,オーストラリア抗原の発見とともに本邦では厚労省,肝臓学会をあげて,臨床,基礎の両面より,新たな肝炎ウイルスの発見,治療に向けて,大半のエネルギーが注がれてきた.この間,生活習慣の欧米化とともに,90年代後半から本邦でも肥満,メタボリック症候群などの生活習慣病患者の急増に伴って,脂肪肝が急増し,肝胆膵でも1997年に脂肪肝の特集号を企画した.この時点では,肝炎,肝がんにおける脂肪化の病態論を論じていただいた.その後,本邦でC型,B型以外の新たな肝炎ウイルスによる慢性肝炎がほぼ否定されるとともに,欧米と同様にNASHの増加が強く推測されるようになり,肝胆膵でも2002年にNASHの特集号を初めて企画させていただいた.当時,なお自験例も少ない中で早くからNASHに深い関心を持ち,研究を進められていた先生方に病態,診断,経過,治療にわたって,現状と問題点を分かりやすく解説いただいた.多くの肝臓専門医や若き研究者にNASHが21世紀の国民病である生活習慣病の肝臓版であることを知っていただき,この領域への関心を高める上でのさきがけ的な役割を果たしたものと思う.その後,全国の施設から多数のNASH/NAFLD患者が報告され,現在では慢性肝疾患の成因別検討では欧米同様にC型肝炎につぐ患者数となっている.今回,8年ぶりにNASHの特集を企画させていただいたが,本邦での自験例も急増し,臨床・基礎研究層も急速に充実しつつある中で,改めて各領域のエキスパートに最新情報と課題をご紹介いただいた.肝臓はまさに生活習慣病の要である糖,脂質代謝の中心である.NASH/NAFLDの征服に向けて,肝代謝学やゲノム解析の専門家を中心に糖尿病や脂質代謝異常症の専門家との連携を深め,叡智を結集する必要がある. (山田剛太郎)
目次
〔巻頭言〕 本邦におけるNASH/NAFLDの現状と課題
大阪府済生会吹田病院 岡 上 武…889
特別寄稿
Metabolic Information Highwayは肝臓に何を求めるのか
東北大学 片 桐 秀 樹…891
疫 学
本邦におけるNASH/NAFLDの頻度,生活習慣病を伴わないNAFLDの頻度
鹿児島大学 M邊 絢香,他…901
NASH/NAFLDの分子病態メカニズム
NASH関連遺伝子 高知大学 小野 正文,他…907
鉄関連分子動態と病態進展 旭川医科大学 大竹 孝明,他…915
エネルギー代謝とNAFLD 筑波大学 松坂 賢,他…923
代謝異常および酸化ストレス関連遺伝子発現と病態進展
鳥取大学 汐田 剛史,他…929
Burned-out NASHの形成機構─肝細胞内の脂肪代謝関連遺伝子解析について─
信州大学 小松 通治,他…941
NASH/NAFLDの診断
スクリーニング診断:生活習慣病との関連 愛媛大学 徳本 良雄,他…947
Biomarkers 順天堂大学 今 一義,他…955
非侵襲的スコア評価法 市立奈良病院 角田 圭雄,他…963
NAFLDの画像診断 兵庫医科大学 飯島 尋子,他…971
病理診断 金沢大学 中沼 安二,他…979
繰り返し肝生検によるNAFLD/NASHの長期予後
単純性脂肪肝からNASHへの進展 川崎医科大学 川中 美和,他…987
NASHの自然経過および発癌 東京女子医科大学 徳重 克年,他…993
治療法
NAFLDに対する食事・運動療法 久留米大学 上野 隆登,他…999
薬物療法
NASH/NAFLDにおけるインスリン抵抗性改善薬の効果
山形大学 河田 純男,他…1007
NASHにおける抗酸化・肝庇護療法 愛知医科大学 米田 政志,他…1015
高脂血症治療薬によるNASH/NAFLDの治療 広島大学 兵庫 秀幸,他…1025
NASHに対する抗線維化療法 奈良県立医科大学 吉治 仁志,他…1033
座談会“NASH/NAFLD診療の現状”
山田剛太郎/西原利治/田村信司/冨田謙吾……………1041