編集後記
今月号は“アルコールと肝疾患”の特集である.座談会でも話題になったが,10年以上前に比べて大学附属病院では明らかにアルコール性肝障害患者は減少しているが,第一線の病院ではむしろ患者数は増加し,重症型のアルコール性肝炎例の増加を指摘する声もある.また,若年女性の飲酒人口の増加による女性のアルコール性肝障害患者の増加が問題になっている.
わが国の肝疾患の多くは肝炎ウイルス(HBV, HCV)感染によるもので,その患者数の多さ,高率に起こる肝発癌,ウイルス性肝炎の病態解析と治療法の進歩などにより,ここ20年余りは多くの肝臓専門医の興味はウイルス性肝障害に向かい,アルコール代謝やアルコール性肝障害を研究する者が著明に減少した.しかし,10年程前からわが国では非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の臨床・研究が注目されるようになり,NASHとの比較でアルコール性肝障害が再度脚光を浴びることになった.
C型肝炎,NASH,アルコール性肝障害に共通する病態として鉄過剰蓄積,酸化ストレスがあり,肝生検では脂肪肝,鉄蓄積が見られ,私はC型肝炎の組織所見からC型肝炎をvirus-induced steatohepatitis(VISH)と認識し,この3疾患をVISH, NASH, ASH(alcoholic steatohepatitis)として検討してきた.この3疾患にはミトコンドリア傷害が大きく関与し,形態学的にもそれを裏付けている.ここ数年,鉄代謝に関連するいくつかのmoleculeが明らかになり,アルコール性肝障害における鉄代謝も注目されている.
本特集では,わが国を代表するアルコール性肝障害の研究者に代謝,病態形成,病理,治療などにつき執筆して頂いた.本特集を読んで頂ければ,わが国のアルコール性肝障害の現状とトピックスがご理解頂けると思う.
長年わが国のアルコール性肝障害の臨床・研究を指導してこられた金沢医科大学名誉教授の高田 昭先生が今年お亡くなりになった.アルコール性肝障害の臨床・研究に多大な貢献をされた先生に心から感謝の念を捧げご冥福をお祈りし,編集後記とさせて頂く.
目次
〔巻頭言〕「アルコールと肝疾患」に寄せて想うこと 石井 裕正
本邦におけるアルコール性肝障害の動向 堀江 義則
アルコールの代謝 矢野 博一,他
アルコールと糖・脂質代謝 山岸 由幸,他
アルコールと微量金属代謝―アルコール肝障害の増悪因子としての鉄イオンの役割 高後 裕
アルコール性肝障害の性差 清水 一郎,他
アルコール性肝障害の成立機序
エンドトキシン 福井 博
肝微小循環障害とミトコンドリア機能障害の役割 佐藤 信紘,他
酸化ストレス 榎本 信行,他
アルコール性肝障害の病態生理
アルコール性肝障害の肝組織所見 中野 雅行
超微形態 岡上 武
アルコール性肝障害と肝線維化 上野 隆登,他
肝内結節性病変 中島 収
NASHとの肝組織の鑑別 中野 雅行
アルコール性肝障害の診断と臨床像 川原 弘
重症型アルコール性肝炎の病態と治療 石井 邦英,他
座談会 岡上 武
高瀬修二郎
高後 裕
円山 英昭