編集後記
非アルコール性脂肪性肝炎(non-alicoholic steatohepatitis; NASH)についてその疾患概念を明確に説明できるhepatologistがどれ位いるだろうか? 確かに,非飲酒者にアルコール性肝障害に類似した肝障害(alcoholic steatohepatitis; ASH)が存在することが臨床的には経験され,その場合,一般的には肥満や糖代謝異常がしばしば随伴している.したがって,NASHは生活習慣に依存したいわゆる“生活習慣病”,あるいは“metabolic syndrome”のhepatic manifestationとも理解できる.そうであれば,NASHとASHには疾患概念の上で歴然とした差が存在する.ところが,タモキシフェンなどの薬剤により,また,痩せなどにもNASH様病変が随伴することが知られるとNASHの疾患概念を説明することは極めて難しいものとなる.ラットをCDAA飼料(cholin deficient L-amino acids deficient diet)で飼育すると,脂肪性肝炎から肝硬変,そして肝細胞癌の発生をみるが,これとてもHASHの肝病変の進展様式そのものである.Dayが言ったようにアルコールを除いたさまざまな要因(肥満,薬剤,etc.),すなわち,ファースト・ヒットにより脂肪肝(hepatic steatosis)が生じ,そこにセカンド・ヒットとして何らかの攻撃因子が加わり脂肪性肝炎から線維化といった変化が生じ,その状態をまとめてNASHと定義するのであれば理解しやすいかも知れない.その際,C型肝炎をどのように取り扱うか明確にしなければならない.その理由は,C型肝炎では肝炎に加え脂肪の蓄積がみられること,さらに,肥満とインスリン抵抗性がしばしば観察されることであり,HCV陽性ではあるものの病態の進展形式はNASHに類似している.学会などで時としてHCV陽性のNASH症例の報告があるのは,アルコールが要因からはずれればNASHとして取り扱ってもいいのではという考えからであろう.では,NASHを一つの疾患単位として取り扱うためにはどのような条件が必要なのだろうか.ここが本特集のねらいである.したがって,NASHについて,@分子疫学,A病理組織,B酸化ストレス,Cインスリン抵抗性とメタボリックシンドローム,Dサイトカイン,の面から疾患特異性があるかどうか明らかにしていただいた.この点については座談会でも大いに議論していただいたが,一つの疾患単位としてNASHを説明するには現時点では無理なようである.今後とも,分子レベルで,生化学レベルで,また,病理学のレベルでNASHの特徴が解き明かされルことが期待される,それはそれとして臨床のレベルでは肝硬変まで進展する,ひょっとしたら肝細胞癌まで進展するNASHをASHやB型・C型肝炎と同じ目線でマネージすることが重要である.斯様な意味で本特集号が読者のお役に立つことを願っている.
目次
〔巻頭言〕本邦におけるNASHの将来像 谷川 久一
疾患概念
NASHの疾患概念・遺伝的素因と環境因子 田中 肇,他
NAFLD/NASHの疾患概念と病理組織所見 山田剛太郎
病因
酸化ストレスと脂肪過酸化 光吉 博則,他
チオレドキシン 奥山 裕照,他
インスリン抵抗性とメタボリックシンドローム 中牟田 誠
サイトカイン 松本 俊彦,他
NASHと肝線維化:現状と問題点 藤井 英樹,他
NASHのバイオマーカーと臨床診断 木村 輝昭,他
マネージメント
生活習慣病対策 関谷 千尋,他
NASHにおけるインスリン抵抗性の改善 松浦 文三,他
NASHの抗酸化療法 上野 隆登,他
肝発癌
NASH発癌例の特徴 橋本 悦子
発癌機序 池嶋 健一,他
NASHの動物モデル 堀江 泰夫,他
座談会 沖田 極
加藤 眞三
加藤 淳二
汐田 剛史
岡上 武
症例報告
発熱,黄疸と肝腫大を主症状とし進行性の病態を呈した胃内分泌細胞癌の1症例 森 広樹,他
学会印象記
第24回日本肝移植研究会印象記 市田 隆文