編集後記
◇3月11日から8カ月を経た現在,福島第一原発事故による影響は終焉を迎えるどころか,むしろ各方面に拡大を続けている。放射能汚染だけではなく,「情報汚染」 の方が深刻という意見も聞かれるようになってきた。この事態に精神科医療はどうあるべきかが問われている。
◇本誌はこの局面にあたって,今や世界中にその名前を知られるに至ったフクシマから何を学ぶべきかを特集してお届けする。編集子は,3月11日以来,文字通り現地で不眠不休の支援活動を続けておられる,福島県立医大の丹羽真一教授にゲストエディターをお願いした。ご多忙の中を無理は承知のお願いであったが,快くお引き受けいただいた。
◇でき上がった特集号には,ご覧のように充実した執筆陣に充実した内容を盛り込んでいただくことができた。福島のおかれた状況を客観的に伝えるとともに,この事故から学ぶべき 「こころのケア」 の今後のありようについて,より広い観点から論述されている。本誌の主要な読者である精神科医だけでなく,こういった大事故に際して情報をエスカレートしがちなマスコミ関係の方々にもぜひ読んでもらいたいと思う。
◇フクシマの影響は今後も長く続く。編集子も支援に入って垣間見た相双地区における精神科医療の現状は,元来乏しかった資源がほとんどなくなり,いわば壊滅状態である。復興ではなく,新しい医療のシステムを構築しなければならない。支援に本誌がなにがしかの役に立てばと願わずにはいられない。(K.N.)
目次
特集にあたって(福島県立医科大学)丹 羽 真 一…1411
福島県原発事故と精神科病院入院患者避難─私たちの経験─(針生ヶ丘病院)熊 倉 徹 雄…1417
原子力発電所事故後の福島県における精神科新入院の状況(福島県立医科大学)和田 明・他…1423
見通しを持てずにさまよう被災者の心(武蔵野大学)小 西 聖 子…1431
放射線事故・災害と放射線被ばくに備えて─放射線被ばく事故についての基礎的知識の整理─(放射線医学総合研究所)富永 隆子・他…1439
被ばく者が受けている精神的傷害─世界の実例から(長崎大学)中 根 秀 之…1449
東日本大震災における被ばく不安(国立精神・神経医療研究センター)金 吉 晴…1461
東海村事故の教訓─JCO臨海事故後と福島原子力発電所事故後の東海村地域住民の精神健康─(川村学園女子大学)簑下 成子・他…1469
災害時における精神病院の避難(防衛医科大学校)徳 野 慎 一…1477
❖シリーズ 難治性気分障害の治療:エビデンスレビュー
エビデンスに基づいた更年期うつ病の薬物治療ガイドライン
山田 和男・他…1485
❖書評
『時代が締め出すこころ』 (青木省三著)─タフなやさしさ
内 海 健 …1491
❖研究報告
医療観察法入院処遇前における精神保健福祉法入院の現状
瀬戸 秀文・他…1495
重症強迫性障害の一般外来における治療経験─受容的心的態度について─
赤 座 叡…1507
炭酸リチウム(Li)服用中に高ナトリウム血症をきたした3症例
檀 瑠影・他…1515
❖講演紹介〔第8回福岡精神医学研究会 前田重治氏特別講演記録〕
芸論と精神療法
前 田 重 治…1523